骨組構造解析(マトリックス構造解析)

        目次
骨組構造解析の基礎
 多元連立1次方程式の解法
 要素剛性マトリックス
 釣合条件,適合条件
 全体剛性マトリックスの作成
 せん断変形,剛域および材端回転ばねの取り扱い
 部材モデル
 履歴則と復元力特性
 解析プログラム

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(1) 骨組構造解析の基礎

 講義で扱う範囲 :変位法による平面骨組の静的線形解析および静的非線形解析に限定
               静的非線形解析 〜 非線形挙動の要因
                            ・材料非線形(要素レベル,部材レベル)
                            ・幾何学的非線形(例えば,P−Δ効果)
                           講義では部材レベルの材料非線形のみを考慮
 力学のポイント〜 @ スムースな力の流れに対する配慮(古典的な構造力学を用いた
                手計算およびパラメトリック・スタディーで直感力を養成)
              A 節点における力の釣合式成立の確認(計算結果のチェックの基本)
             例え,プログラムにミスが一切なくとも,使い手が誤れば得られた結果に
            誤りが生じる恐れがある,誤りがなくとも力学的なバランスに欠ける恐れも
            ある。従って,上記のポイントを肝に銘じて,常に細心の注意を払うことが
            大切である。

 マトリックス構造解析の特徴 : 構造力学の基礎的概念を抽象化,一般化しているため,
                      解析法の考え方にはトラスやラーメンの区別,2次元,3次
                      元の区別が無い。違いは1節点当たりの自由度数が異な
                      るだけである。

                        変位法による釣合方程式作成のフロー
                         P=Kd (節点荷重〜節点変位関係式)

                        1) 部材の構成方程式(constitutive equations )
     

 部材端荷重〜部材端変位 関係(部材座標系) 〜(1)

                               ↓ 座標変換(基準座標系←部材座標系)

部材端荷重〜部材端変位 関係(基準座標系) 〜(2)

                        2) 適合条件式( compatibility equations )

部材端変位〜節点変位 関係(基準座標系) 〜(3)

                               ↓ (3)を(2)に代入

部材端荷重〜節点変位 関係(基準座標系) 〜(4)

                        3) 釣合条件式( equilibrium equations )

節点荷重〜部材端荷重 関係(基準座標系) 〜(5)

                               ↓ (5)に(4)を代入

節点荷重〜節点変位 関係(基準座標系) 〜(6)
P=Kd


 節点,部材,荷重および変位の記号(骨組構造解析テキストの例)
      節点名      : 英大文字 A,B,C,.....で表す。なお支点はOで表す。
      部材名      : 英小文字 a,b,c,d,...で表す。
      部材端の区別 : 1端(スタート点),2端(エンド点)。節点の英文字のアルファベット
                  順が早い方から遅い方に向かうと約束。
                  なお,支点Oは他の英文字より先にあるとする。
      荷重ベクトル  : ={p p m}’ ここで,’は転置の意味。以下同様。
                   ただし,p〜材軸方向荷重,p〜材軸直交方向荷重,
                   m〜モーメント
      節点荷重    : 節点の英文字を添え,...のように表す。
                 ={pxA pyA m}’
      部材端荷重   : 部材名とどちらの端部かを示さねばならないので,添え字は2つ。
                  1a2ap1bp2b,....
      変位ベクトル   : ={δ δ Θ}’ 
                  ただし,δ〜材軸方向変位(単位:長さ),δ〜材軸直交方向
                  変位,Θ〜回転角(単位:ラジアン)
      節点変位    : ,....のように節点名を添える。
      部材端変位   : 1a2a1b2b,...

 荷重,変位の符号の規約
      部材端荷重,部材端変位(部材座標系)および節点荷重,節点変位(基準座標系)
     〜右手座標系に従う。即ち,x軸方向の力,変位は水平右向き(部材座標系の場合
     材軸方向の力,変位は,1端から2端へ向かう方向)を正,y軸方向の力,変位は鉛直
     上向き(部材座標系の場合,材軸に直交方向の力,変位はx軸の正方向となす角が
     反時計廻りに90度)を正,モーメントと回転角は反時計廻りを正とする。

                          
                      図 1-1 荷重,変位の符号の規約(正方向)

      ポイント 〜 部材端荷重,部材端変位の符号の規約と部材応力の符号の規約を
              区別し,混同しないこと。

     部材応力の符号の規約 : 慣例によれば,軸方向力:引張を正,せん断力:↑↓を
                        正,モーメント:上側圧縮で下側引張となる1対のモー
                        メントを正とする。

 基準座標系と部材座標系
     基準座標系は全体座標系,global座標系,部材座標系は局部座標系,local座標系
                とも呼ばれる。
      基準座標系 : 骨組全体に適用する座標系
                x’軸水平右向きを正,y’軸鉛直上向きを正,回転は反時計廻りを
                正とする。部材座標系と区別するために,ここでは’を付けている。
                座標の原点は,データ(例えば,節点の座標値データ)の入力が
                簡単になるように選ぶ。
      部材座標系 : 個々の部材に適用する座標系(例えば,斜材は斜材なりに以下の
                ように考える)
                x軸は1端から2端へ向かう方向を正,y軸は材軸に直交でx軸との
                なす角が反時計廻りに90度を正,回転は反時計廻りを正とする。
        
        上記座標系を考慮すると,節点荷重,...,節点変位,...は常に
                   (基準座標系)で表す。
                   部材端荷重,部材端変位は必要に応じて(基準座標系)と
                   (部材座標系)を使い分ける。
                部材端荷重 1a2ap1bp2b,....      : (部材座標系)
                        1a’,2a’p1b’p2b’,...    : (基準座標系)
                部材端変位 1a2a1b2b,..      : (部材座標系)
                        1a’,2a’1b’2b’,..    : (基準座標系)
                基準座標系で表示した荷重,変位には,’を付けて部材座標系と
                区別する。

 座標変換マトリックス
     部材座標系で表示した量(荷重,変位)を基準座標系で表示し直したり,逆に基準
    座標系で表示した量(荷重,変位)を部材座標系で表示した量に直すことを座標変換と
    云う。互いに異なる座標系で表した2つの量は,座標変換マトリックスを介して関係付け
    られる。
      部材端荷重の座標変換
          部材座標系で表示した荷重を p,p,m
          基準座標系で表示した荷重を p’,p’,m’ と置く。
                
                       図 1−2 部材端荷重の座標変換

           上図を参照すると,部材の材軸方向xが基準座標のx’軸に対して角度α
           傾いているとき,両者の荷重間の関係式は次のようになる。
               
           上の式をマトリックス表示すると,
                
           簡潔に記述すると,
                
      部材端変位の座標変換
          部材座標系で表示した変位を δ,δ,Θ
          基準座標系で表示した変位を δ’,δy’,Θ’と置く。

             
                 図 1-3 部材端変位の座標変換

           上図を参照すると,両者の変位間の関係式は次のようになる。
               
           上の式をマトリックス表示すると,
                
           簡潔に記述すると,
                 

 要素剛性マトリックス
     これについては,(3)要素剛性マトリックスの項において,部材端荷重〜部材端変位
    関係(部材座標系表示)の剛性マトリックスの誘導と部材端荷重〜部材端変位関係
    (基準座標系表示)への変換について説明しているので,そちらを参照のこと。
     なお,節点荷重〜節点変位関係の剛性マトリックスの置き換えについては,(4)釣合
    条件,適合条件の項を参照のこと。
 
 等価節点荷重
     単独の部材の両端の節点に挟まれた部材軸に作用する荷重(例えば,等分布荷重や
    集中荷重など)のことを中間荷重という。マトリックス構造解析では,線形弾性挙動を
    仮定する場合,重ね合わせの原理が成立するので,中間荷重をこれと等価な節点荷重
    に置き換えて計算を実行する。
     具体的な等価節点荷重の考え方,取り扱いは下図を参照すると,以下の通りである。
            
                          図 1-4 荷重系(a)と荷重系(b)の重ね合わせ

       荷重系(a)・・・・中間荷重が作用している部材を単独に取り出し,両端固定部材と
                 みなしたときの固定端反力,固定端モーメントを求める。これを
                 荷重系(a)とする。
       荷重系(b)・・・・実際の構造物には,荷重系(a)で仮定した節点変位と回転を拘束する
                 力やモーメントは作用していないので,上で求めた固定端反力,固定
                 端モーメントの符号を逆にして等価節点荷重とし,骨組に作用させる。
                 この系について通常のマトリックス構造解析を行う。

    中間荷重が作用している部材の応力算定=
                         荷重系(b)の部材応力+荷重系(a)の部材応力

     この加算により,荷重系(a)の固定端反力,固定端モーメントと荷重系(b)の等価
    節点荷重がキャンセルされ,中間荷重のみが部材に作用した部材応力が求まる。

         具体的な計算例〜テキストp67の例題3を参照のこと。

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(2) 多元連立1次方程式の解法

 構造物の静的解析では,最終的に次の形の多元連立1次方程式を解くことになる。
              
   ここで, K:剛性マトリックス(部材データ等が与えられると,確定)
         U:変位ベクトル(未知)
         F:荷重ベクトル(外力が与えられると,確定)

  多元連立1次方程式の解法には,大きく直接解法と反復解法がある。ここでは,直接解法
 の基本であるGaussの消去法について解説する。

Gaussの消去法の計算例

 次の4元の簡単な連立方程式をGaussの消去法で解く。
           
 (1)前進消去 : 上三角マトリックスに変形する手続き
   ステップ 1 : 第1行の対角要素より下の第1列要素が全て0となるように,次の式を
             用いて変形する。
             (i,j)要素−{(i,1)要素/(1,1)の対角要素}×(1,j)要素
              ここに,  i=2,j=1〜4
                     i=3,j=1〜4
                    i=4,j=1〜4
              このとき,荷重ベクトルも同様に変形する。
           

   ステップ 2 : 第2行の対角要素より下の要素が0となるように変形する。
             変形の考え方は,上記に同じ(以下同様)
           
   ステップ 3 : 第3行の対角要素より下の要素が0となるように変形する。
           
 (2)後退代入 : 最終行の未知変位を先ず求め,次いで(最終−1)行,...2,1行の順番
            で未知変位を求める手続き
    

 構造物を解く際の剛性マトリックスの特徴
  ・ 正方対称マトリックス
  ・ 主対角要素は全て正の値をとる
  ・ バンド状マトリックス
  
   実用的なプログラムは,基本的には上記Gaussの消去法の応用である場合が多いが,
  上記の特徴を最大限に利用して,効率の良い演算や容量の節約を実現している。

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(3) 要素剛性マトリックス

 
釣合マトリックス H を用いた誘導
 (1) 釣合マトリックス(部材端荷重と部材応力の関係)
      中間荷重のない部材の応力は,3つの独立な部材端荷重が決まれば全て定める
      ことが出来る。

         部材端荷重 6個     〜 1節点当たり3自由度×2節点(1端と2端)
         部材の釣合条件式 3個 〜 x方向,y方向,モーメントの力の釣合

      部材の釣合条件式を考慮すると,部材端荷重6個の内の3個は従属的に定まる。
     例えば,下図のように2端側を部材応力に対応する独立な3個の部材端荷重と仮定
     すると,図よりpx2=t,py2=−q,m2は部材端モーメントに同じとなる。1端側は部材
     の釣合条件から定まる従属的な荷重となる。これは部材を1端で固定された片持ち梁
     とみなすことに相当する。

          
               図 3-1 部材端荷重と部材端応力との関係

         1端の従属な部材端荷重は,部材の釣合条件式,即ちx方向,y方向の力の
        釣合式と1端廻りのモーメントの釣合式から次のように求められる。
            
        これをマトリックス表示すると,
            
        さらに,上式を簡潔に記述すると,次のように表される。
             
               ここに,H:釣合マトリックス

 (2) 部材の変形ベクトル(部材変形と剛体変位)
      通常,部材端の変位には両部材端の相対変位と部材の剛体変位が含まれる。即ち,
         部材端の変位=両部材端の相対変位+部材の剛体変位
       両部材端の相対変位のことを部材変形と呼ぶ。
      これを図で示すと,次のように表される。

           
                  図 3-2 部材変形と剛体変位

      部材の剛体変位の定義 : 剛体変位は部材端変位に*を付けて表す。
             1端の剛体変位は,部材端変位に同じと定義する。 即ち, 1*=1
             2端では,1端と2端の剛体変位について次の関係
                  
                       があり,これをマトリックス表示すると,
                  
                       簡潔に記述すると,次のように表される。
                  
      両部材端間の相対変位(部材変形) : 
             上図(c)の2端の変位が,両部材端間の相対変位,即ち部材変形を表し,
             次の式で表される。
                  
             簡潔に記述すると,
                   
                         ここに, :部材変形ベクトル
              したがって,部材変形ベクトルは,部材端変位12から計算できる。

 (3) 要素剛性マトリックス(部材端荷重〜部材端変位 関係)
      図3-2(c)図より,部材変形ベクトルの各要素は,次の図に示すように2端に独立な
     部材端荷重を受ける片持ち梁の変形として計算できる。
       前提条件:部材は等断面直線材と仮定し,せん断変形は考慮しない。

              
                        図 3-3 先端荷重を受ける片持ちばりの応力と変形

       軸方向力px2による材軸変形e,および部材端荷重py2,m2による撓みと回転角は,
      次のように求められる。
           
        
        であることを考慮すると,次の関係式が得られる。
            
       これをマトリックス表示すると,
             
       簡潔に表示すると,
              
               ここに,:撓み性マトリックス(flexibility matrix)
       一方,上の式を部材端荷重について解き,マトリックス表示すると,
              
       簡潔に表示すると,
              
               ここに,:剛性マトリックス(stiffness matrix)
       撓み性マトリックス,剛性マトリックスは対称マトリックスで互いに逆マトリックスの
      関係にある。

      部材の構成方程式(部材端荷重〜部材端変位 関係)は,剛性マトリックスを用いる
     と次の式で表現できる。
              
      これをマトリックス表示すると,
              
      以上で,具体的な構成方程式を示す準備が整った。

      上の3つの式,(1),(2),(3)式を再度並べて記すと,
              
      (3)式を(1)式に代入し,(3)式と並記し,さらに(2)式を考慮し,整理すると,
              
      (4)式と上式を比較すると,
              
      

      具体的に要素剛性マトリックスを記述すると,次のように表される。
  
      この式は,部材座標系で表示された部材端荷重と部材端変位を関係付ける
      要素剛性マトリックスである。

 撓み角法の基本式を用いた誘導
  前提条件 : 微小変形理論が成立する
           中間荷重が作用しない
           軸方向力と曲げとは連成しない。
   撓み角法の基本式は,次の通りである。
      
             ただし,部材角 
               
   また,軸方向力と軸方向変位の関係は,前提条件で曲げとの連成効果を無視している
   ので,次のように表される。
          
   さらに,せん断力は,中間荷重が作用しないとしているので,両端の曲げモーメントから
   次式で得られる。
      
   以上の式をマトリックス表示すると,以下のようになる。
   
   この式は,部材座標系で表示された部材端荷重と部材端変位を関係付ける方程式である。

  基準座標系表示への変換
      部材座標系で表示された要素剛性マトリックスを基準座標系に変換するには,
     座標変換マトリックスを用いる。
       部材座標系で表示された部材端荷重と部材端変位の関係式は,
              
       骨組構造解析の基礎,座標変換マトリックスの項において誘導した式を再掲すると,
              
       である。(5)式の両辺にを左乗積し,(7)式を代入すると
              
       さらに,(6)式を考慮すると
              
        ’は基準座標系で表示した要素剛性マトリックスである。
       ただし,これは部材端荷重〜部材端変位 関係(基準座標系表示)である。
       節点荷重〜節点変位関係(基準座標系表示)への置き換えについては,適合条件,
       釣合条件の項参照のこと。

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(4) 釣合条件,適合条件

  釣合条件
     釣合条件は,節点における力の釣合条件を意味し,”節点荷重はその節点に接続して
    いる部材端荷重(基準座標系で表示)の和に等しい” ことを表した次の式で表現される。
         
      ただし,i は節点X に接続する部材名
           n は節点X に接続する部材数
     具体例
         
  適合条件
     適合条件は,節点における変位の適合条件を意味し,”節点変位はその節点に接続
    している夫々の部材端変位(基準座標系で表示)に等しい” ことを表した次の式で表現
    される。
          
     具体例
          
  節点荷重〜節点変位関係の剛性マトリックスへの置き換え
   前提条件:節点と部材端の間に剛域は存在しないとする。
   部材端荷重〜部材端変位の関係は要素剛性マトリックスの項で基準座標系表示の場合,
   次のように求められた。
          
   上式が i 部材についての関係式であると考えると,
             
   即ち,
         
   これを節点荷重〜節点変位関係(基準座標系表示)に置き換えるには,上記の釣合条件
   式と適合条件式を用いる。適合条件式より,i部材の片方の端部は節点Xに接続すると
   仮定すると,部材端変位のいずれか一方(1i’または2i’)は節点変位xに等しい。
   即ち,
          
   節点荷重は節点Xに接続する複数部材の節点荷重寄与分の和に等しいとも解釈で
   きるので,i 部材からの節点荷重寄与分をX1iまたはX2iと置くと,
          
   上式と釣合条件(1)式との比較から,
           
   と置ける。i 部材の1端が節点Xに接続し,2端が節点Zに接続すると仮定すると,(4)、
   (6)式から(3)式は結局次のように節点荷重〜節点変位関係で表示される。
           
   以上のことより,基準座標系で表示した部材端荷重〜部材端変位関係の剛性マトリックス
   は,節点荷重〜節点変位関係の剛性マトリックスに一致することが分かる。(ただし,部材
   端と節点の間に剛域が存在する場合は一致しない)

    (7)式から分かるように,節点荷重〜節点変位関係の剛性マトリックスは,部材 i が
   接続する節点(この例ではXとZ)に関連する剛性マトリックスである。即ち,下図のように
   部材端荷重〜部材端変位関係のときには要素剛性マトリックスはコンパクトに詰まっていた
   が,全体剛性マトリックスを作成する際には,節点荷重〜節点変位関係に置き換わるので
   節点の並びに応じて配置する必要がある。 
           
     釣合条件と適合条件は,個々の要素剛性マトリックス(基準座標系表示)から骨組
    全体の剛性マトリックスを組み立てる際の位置決めだけに関与している。

 要素剛性マトリックスのまとめ
   剛性の定義 〜 単位撓みを引き起こすために必要な力
   撓み性の定義〜単位荷重により生ずる撓み
   剛性マトリックスの特徴
     ・ 対称マトリックスとなる(即ち,相反性を有する)
     ・ 剛性マトリクッスの主対角要素は正である(力の向きと逆方向に変位は生じない)
     ・ 部材端荷重〜部材端変位関係式および節点荷重〜節点変位関係式の各行では,
       力の釣合方程式が成立している。(演習問題6参照のこと)
  
  相反性(reciprocity)
     線形弾性挙動する構造物に対しては重ね合わせの原理が成立し,撓み性係数
    (撓み性マトリックスの各要素)と剛性係数(剛性マトリックスの各要素)とは,相反性を
    有する(fij=fjiおよびkij=kji)。
   相反性の証明
    下図に示す構造物に,次の2通りの順序で荷重が作用する場合の仕事(歪エネルギー)
    について考える。
      (1) 最初に荷重F1が,次に荷重F2が作用する場合・・・・このときの仕事をWIで表す
      (2) 最初に荷重F2が,次に荷重F1が作用する場合・・・・このときの仕事をWIIで表す
              
                          図 4-1 相反性

      (1)の順序で荷重を作用させた場合の仕事は,荷重F1に対して,
      
       ここで,F1を一定に保ちF2を作用させると,そのときの仕事は,
         
       したがって,全仕事WI は次のようになる。
         
      一方,力の作用順序を逆に(2)で示した通りにして仕事を考えると,荷重F2に対して,
          
        ここで,F2を一定に保ちF1を作用させると,そのときの仕事は,
          
       したがって,全仕事WII は次のようになる。
          
       荷重が作用する順序は線形系ではなされる仕事に関係しないので,Wに関する
       上の2つの式を等しいと置けるので,次式を得る。
             
       一般形では,
             
       これはマックスウェルの相反定理(Maxwell's reciprocal theorem)として知られて
       いるものである。
       マックスウェルの相反定理はベッテイの法則(Betti's law)の特殊な場合に相当。
          ベッテイの法則 : 外力系{P2}によって変位系{Δ2}が生じているときに,
                      外力系{P1}によってなされる仕事は,{P1}によって{Δ1
                      が生じているときに,{P2}によってなされる仕事に等しい。

        ・ 撓み性マトリックスは対称マトリックスである。
        ・ 対称マトリックスの逆マトリックスは対称マトリックスである。
        ・ 撓み性マトリックスの逆マトリックスは剛性マトリックスである。
       以上のことより,剛性マトリックスは対称マトリックスである。
       即ち,
             

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 (5)全体剛性マトリックスの作成
     個々の部材の要素剛性マトリックス(基準座標系表示の節点荷重〜節点変位関係)を
    (4)釣合条件,適合条件の項で述べた夫々の位置決めにしたがい配置して,骨組全体
    の剛性マトリックスを作成する。
    具体例として,3層2スパンの次の骨組について全体剛性マトリックスを作成する。
              
               図 5-1 3層2スパン骨組
                    (節点番号,部材番号)

    部材の要素剛性マトリックス(基準座標系表示)を部材名をXで代表させて表すと
   次のようになる。
           
    例えば,A部材の場合,1端,2端は夫々a端,e端に対応して全体剛性マトリックスに
   配置される。

      

    以下,同様に他の部材についても両端の節点番号に応じて全体剛性マトリックスに
   組み込まれる。これを図に表すと,次のようになる。ただし,簡単のために基準座標系を
   意味する’は省略した。

           a           b             c           d           e               f 
        ------------------------------------------------------------------------------------------------
  

            g               h          i            j             k           l
    -----------------------------------------------------------------------------------------------
    

   (注) 上記の全体剛性マトリックスの各要素は,3×3のマトリックスである。

 境界条件(boundary condition)
    境界条件とは,構造物が外的に拘束され,変位が規定された値に強制されることをいう。
   上のモデルの場合,節点a,e,iのX方向とY方向変位が拘束されており,多元連立1次
   方程式を解く前から該当変位は0であることが分かる。テキストでは,支点に接続する節点
   荷重,節点変位は多元連立1次方程式に含めない説明をしている。
    これについては,テキストp84脚注に示された簡便法(拘束されている自由度に対応する
   主対角要素に大きな数,例えば10の20乗などを掛けて,該当変位が強制的に0に限りなく
   近くなるようにする)を用いることにより,支点に接続する節点荷重,節点変位を多元連立
   1次方程式に含めたままで扱うことができる。
    なお,脚注の説明で擬特異となって数値計算が困難になるとあるが,これは斜め
   ローラーのy''方向のみに簡便法を適用すれば,解決できる。

 サブストラクチャー法
    この手法は,解析対象が大規模であるとか細かく分割して計算したい場合に,計算機
   容量が小さ過ぎて通常の方法では,計算が困難な場合に知っていると便利な方法である。
   即ち,計算テクニックのひとつである。
    基本的な考え方は,部分構造(Sub-Structure)として扱える対象について,節点番号
   を付番する際,境界点(他の部材に接続する節点)と内点(他の部材に接続しない内部の
   節点)に分けて考える。次にサブストラクチャーをひとつの部材或いは要素と考え,剛性マト
   リックスを作成する。その際内点から節点番号を付番し,境界点の節点には全ての内点の
   付番を終えてから付番する。最後に内点に関する項のみ消去し,内点の影響を反映した
   境界点に関する剛性マトリックスを求める。この操作を縮約と呼び,縮約後の剛性を
   スーパーエレメント
の剛性と呼ぶ場合もある。骨組全体の剛性マトリックスを組み立てる際
   には,サブストラクチャーに関しては縮約後の剛性を当てる。
    連立一次方程式を解いて境界点の変位が求まったら,それを基に内点の変位を求める。
   上記に関連する式の展開は,別途講義時に紹介する。

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 (6) せん断変形,剛域および材端回転ばねの取り扱い

 せん断変形を考慮した剛性マトリックス
    次の等断面直線材の図において,力の釣合式をたてると次のようになる。
          
             図 6-1 等断面直線材
     
   これを歪エネルギー式に代入すると,
     
   上式を積分すると,次の式が得られる。
     
   次に,カスチリアーノの第二定理より,歪エネルギーを荷重で偏微分し変形を求めると,
     
   以上をまとめてマトリックス表示すると,次のようになる。
     
   これを簡潔に表示すると,
      
   撓み性マトリックスの式中γ/2は曲げ変形に対するせん断変形の比率を表す。
   剛性マトリックスの逆マトリックスとして,求められる。
      

   参考:逆マトリックスの計算
         

 剛域を有する部材の剛性マトリックス
  釣合マトリックスの積(準備その1)
    釣合マトリックスHの働き
     ・ 部材の釣合条件を表す。
     ・ 部材の両端の剛体変位の関係を表す。
        
   釣合マトリックスの積〜2つの部材が下図に示すように剛に接合され,部材に中間荷重が
  作用していなければ,2部材a,bから成る部材を1部材cと見なすとき,
  c部材の釣合マトリックスはa部材とb部材の釣合マトリックス と の積で
  与えられる。
                   
           

                  図 6-2 剛接2部材から成る部材

   (証明)
      a部材について両端の剛体変位の関係は,
        
      b部材について同様に
        
      適合条件より,であるから,この関係を考慮して(2)式に(1)式を
      代入すると,
        
      一方,
        
      であるから,(4)式を考慮すると(3)式は次の
      ように表せる。
        
      上式は部材が3つ以上の場合に対しても拡張でき,
        
      と表すことができる。

  直列連鎖材の剛性マトリックス(準備その2)
   下図に示すように直列連鎖材とは,数個の等断面直線材が直列に結合された部材をいう。
        

                      図 6-3 直列連鎖材と要素kの歪による変形

   以下に,個々の等断面直線材の撓み性マトリックスは既知と仮定し,直列連鎖材AX
  の全体剛性マトリックスを誘導する。なお,以下においては,変位,荷重,釣合マトリックス,
  撓み性マトリックスは部材AX全体について共通の部材座標系で表示されているものとする。
  k部材のX端変位寄与分Xkの算定
   @) k部材K端の変位の計算
        
   A) KX部分の変位
        KXの両端の変位間には,KXは剛体だから次式が成立する。
         
        故に,k部材の寄与によるX端の変位は,
         
        よって直列連鎖材がn個の等断面直線材から成っているとすると,は次式の
       ように表される。
         
        上式の( )内がAX全体としての撓み性マトリックスAXである。故に,
         
        即ち,直列に結合された部材の撓み性マトリックスは,個々の部材の撓み性マト
       リックスFkに後ろから釣合マトリックスKXを,前からKXの転置を掛けて修正した
       ものの和に等しい。剛性マトリックスAXAXを逆変換することにより求められる。
        なお,この剛性マトリックスは直列連鎖材を静定基本部材と見なしたときの剛性
       マトリックスである。したがって,マトリックスのサイズは3×3である。
        部材AX全体に共通の部材座標系表示の構成方程式の剛性マトリックスは,テキ
       ストp98の(3.24)式に示すように静定基本部材の剛性マトリックスAXから求める。

 剛域を有する部材の剛性マトリックスの誘導
   下図のように部材の両端に剛域を有する場合を考える。

         
             図 6-4 剛域を有する部材

   剛域を有する場合は,直列連鎖材の特別な場合とみなすことができるので,(2)式より
   AD部材の撓み性マトリックスを次のように表示できる。
        
   故に,静定基本部材としての剛性マトリックスは,
        

 参考:逆行列の基本公式
   基本公式 1  
     (証明)
        においての代わりにACと置くと,
        
        を左乗積すると,
 
        更に を左乗積すると,
         
        基本公式(A)はさらに多くの行列の積に拡張できる。
         
   基本公式 2  
     (証明)
        の両辺にを左乗積すると
         

   部材座標系表示の構成方程式は,
     
   釣合マトリックスの積の公式より,
     
   両辺にを右乗積すると,
     
   さらに上式の転置を求めると,
     
   (5)式において(6),(7)式を考慮すると,
 
   
 材端に回転ばねを有する部材の剛性マトリックス
   下図に示すように,材端に回転ばねが挿入された部材について考える。具体例としては,
   鉄骨造の梁端がファスナーを介してボルトで柱に接合されている場合に半剛(semi -rigid)
   の扱いをして解析することがある。
           
               図 6-5 材端に回転ばねを有する部材                   図 6-6 回転ばねの変形

   回転ばねが挿入されることにより,部材の変形は次の図に示すようになる。即ち,
  回転ばねの挿入により両材端で回転角は不連続にΘ,ΘDだけ増大する。
            
                     図 6-7 部材の変形

   いま,1端,2端の回転ばねの剛性を次のように置けるものとする。
      
    ここで,R,Rをそのまま用いるよりκ1,κ2を用いた方が剛性マトリックスをより
   簡潔な表示に整理することが出来る。
    図 6-6を参照すると,AB部分だけを取り出してA端を固定としたときのB点側の
   変位ベクトルは,
       
    同様にCD部分の撓み性マトリックスC2は,
       
    BC部分の撓み性マトリックスは先に示したように
        
    したがって,部材全体としての撓み性マトリックスは(2)式を参照すると,
        
    と表すことができる。回転ばねの長さは0と仮定すると,次式が成立する。
        
        
  
    故に,
        
    よって,静定基本部材としての剛性マトリックスは,
         

    部材座標系表示の構成方程式の剛性マトリックスは,テキストp98の(3.24)式にならい
   求めることができる。

     なお,撓み角法の基本式を用いた材端に回転ばねを有する部材の剛性マトリックス
    (ただし,せん断変形を考慮しない場合)の誘導も可能である。これについては,別途
    プリントを配布する。

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 (7) 部材モデル

    RC骨組の弾塑性性状を評価するためには,厳密にはコンクリートの任意多軸応力下の
  応力度〜ひずみ度関係,鉄筋の応力度〜ひずみ度関係,及び鉄筋のすべり等の取扱を
  考慮する必要がある。しかし,これ等については未解明な部分も多く,全てを考慮できたと
  しても計算機容量,計算時間の制約から現段階ではあまり現実的ではない。
    この点を踏まえて材料の性質にまでさかのぼることなく,部材の材端モーメント〜材端
  回転角関係を部材実験に基づいてモデル化し,各載荷段階における部材の瞬間剛性マト
  リックスを算定する方法がRC構造物の動的解析では広く用いられている。
   ところで,部材の弾塑性性状を研究するための実験は,通常図7-1に示す単純支持部材
  で行われる。この単純支持された部材の中央に荷重PをかけたときのP〜δ関係を
  M=PL/4とR=2δ/L の関係に変換すると,図7-1のM〜R関係は図7-2に示す
  逆対称材の材端モーメントMと材端回転角Θとの関係に直接対応する。以上により,部材の
  実験結果を統計的に整理する等すれば,逆対称材についての復元力特性は決められる。
                

                図7-1 単純支持ばり(中央集中荷重)

            
                     図7-2 逆対称材

    一方,部材の材端力と材端変位の増分関係は,瞬間剛性マトリックスを介して次式の
   ように表せる。
       
    しかし,普通は軸方向力については曲げと分離して論じられ,且つ弾性と仮定される
  場合が多い。従って,k
13=k23=k31=k32=0となる。
    逆対称荷重の場合,△M
’=△M’,△Θ’=△Θ’であるので瞬間剛性として
  k
11+k12(=k21+k22)という一つの値しか決められない。これをより一般的な任意の曲げ
  モーメント分布を有する部材にも拡張し,2元の瞬間剛性マトリックスを作るためには,その
  橋渡しとして部材モデル(beam model)が必要となる。
    以上のように,逆対称部材についてのカと変形との関係を表す「復元力特性モデル」と
  これを逆対称でない一般の部材に拡張するための「部材モデル」の2つのモデルを用いれば
  骨組の弾塑性解析を行うことができる。
    以下では,既往の研究として代表的な部材モデルの内,材端バネモデルと柔性パラボラ
  モデル,及び部材の曲げモーメント〜曲率の設定から出発する柔域モデルについて述べる。


 
(1) 材端バネモデル(One Component Model)
    M.F.Gibersonにより提案されたモデルで,図7-3に示すように,部材は弾性を保つ中央の
   部材と両端に挿入された剛塑性回転バネから構成されているものとする。したがって,部材
   の塑性化による剛性低下は両端のバネに限定されるため,両端で変形は不連続となる。
                
                         図7-3 材端ばねモデル

    以上の仮定より,部材の撓み性は,
      
   上式を変形すると,
      
   と表せる。
    この塑性バネのモーメントと回転角に対して復元力特性モデルを使用することもできるが,
   この場合には部材の弾性変形が,その復元力特性には全く反映されないことになる。そこ
   で,部材端における復元力特性モデルの復元力としては部材端モーメントをとり,その変位
   としては,その部材端モーメントに対して反曲点が部材中央にある場合に生ずる部材の
   弾性変形を合めた部材端回転角を用いることが多い。これは,逆対称材の撓み性
0に塑性
   バネの撓み性f
’,或はf’を加えた撓み性を復元力モデルで評価することである。
           
   この式を(7-3)式に代入すると,
           
   で表される。ここに,ティルダーS
1',S2'は,(7-4)式のS1',S2’と異なり反曲点が部材中央
   にある場合に生ずる部材の弾性変形の影響分を含んでいる。このティルダーS1',S2の分子
   を復元力特性で評価すれば良い。(7-7)式の撓み性を用いたこのモデルの欠点は,1’端と
   2’端のモーメントの相互作用を表す非対角項が一1で,部材の弾性性状のみに依存して
   他端の剛性低下による影響が反映されないことである。従って,部材の損傷が著しい場合に
   このモデルを用いることは不適当となる。
    また,(7-7)式は部材のモーメント分布が逆対称となる場合に限ったときの弾性変形を合め
   た式であるから,この条件から著しく逸脱する場合には適宜予想される応力状態の変形を含
   む式に修正する必要もある。

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