DIPLOMA 2008

出村由貴子  Demura Yukiko/刻印された建築空
2008年度北海学園大学工学部建築学科 卒業設計最優秀作品
2008年度日本建築学会北海道支部卒業設計優秀作品 銀賞



卒業制作 2009 近代建築5月号別冊掲載作品

推薦の言葉

 建築は、人間が意志を持って造り上げる構築物である。自然の中にある空間は、建築空間とは言えない。当然のことながら建築における構築性は不可避的である。特に北海道の風土においては、自然風景の中に建築や都市形態の構築性が象徴的に現れてくる。「地」が自然環境であり、「図」が人間・建築・都市となる。つまり、自然と人間の関係が対峙的で、人間の意志が構築化された形に反映されやすい。また、広がる白一色の雪景色においては、そこに巨大な沈黙と静寂を有しているがために、人々の生活の存在を表わす形や色の存在が極めて重要になってくる。   
 制作者は、北海道の自然の象徴的な場所である積丹半島神威岬に着目した。神威岬は、その名称からも分かるように、アイヌの人々が神の存在を疑いえないと確信した場所である。またその確信を導くように人を寄せ付けない厳しさを持った場所であった。この超越的な自然環境に、建築空間を刻印したのが今回の作品である。この建築へは、長い軸線空間を辿り、岩壁を刳り抜いた洞窟的な空間を体験することになる。ここでは、空間体験の過程で偶発的に外部との風景と出会う。この出会いは、風景の中の脈動を強く実感し、あらためて自然との対話を生むことになる。
 現代に生きる我々にとって、これらの対話空間は救済のアジールとなるであろう。対話を深めることによって得られるものは、単なる安らぎだけではない希望である。制作者は、建築の根源的空間を追求することによって、未来への可能性を見出した。この建築的な意志あるいは構築性からは、期待せざるを得ない何かを感じた。必ずしも概念に訴えかける作品ではないが、建築本来の空間造形力は評価に値する。さらに今後、建築の可能性を問い続けてほしい。(米田浩志)